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基本診療料の引き上げと新設加算

長引く物価高と人件費高騰に対応するため、初診料・再診料が底上げされます。加えて、物価高騰への段階的対応として新たな加算も設けられました。

初診料・再診料の引き上げ

項目現行改定後増減
歯科初診料 267点 272点 +5点
歯科再診料 58点 59点 +1点
地域歯科診療支援病院歯科初診料 291点 296点 +5点
地域歯科診療支援病院歯科再診料 75点 76点 +1点

【新設】歯科外来物価対応料

光熱水費や歯科材料費の高騰に対応するための加算が新設されます。基本診療料と併せて算定が可能です。

項目点数備考
歯科外来物価対応料(初診時)NEW 3点 令和9年6月以降は6点
歯科外来物価対応料(再診時)NEW 1点 令和9年6月以降は2点
POINT

令和9年(2027年)6月以降は所定点数の100分の200(2倍)を算定する段階的措置が導入されます。初診6点、再診2点へ自動引き上げとなります。

シミュレーション
初再診料+物価対応料の増収効果(月間初診30名・再診延べ370名の医院)
  • 初診料増:30名 × 5点 × 10円 = 1,500円/月
  • 再診料増:370名 × 1点 × 10円 = 3,700円/月
  • 物価対応料(初診):30名 × 3点 × 10円 = 900円/月
  • 物価対応料(再診):370名 × 1点 × 10円 = 3,700円/月
→ 月間+9,800円、年間で約11.8万円の増収(届出不要で自動適用)。
→ 2027年6月以降は物価対応料が倍増し、年間ベースでさらに+5.5万円の上乗せ。
院長先生が考慮すべきこと
  • 初診料+5点・再診料+1点は全患者に自動適用。届出は不要ですが、歯科外来物価対応料を含めレセコンの算定設定を早めに確認しましょう。
  • 2027年6月に物価対応料が自動で2倍になる点を中長期の収支計画に織り込んでおくことが重要です。
  • 診療報酬の加算により患者の窓口負担が若干増加します。受付での説明用リーフレットは、令和8年度改定版が告示後(2026年3月以降)に厚労省のベースアップ評価料 特設ページ等で公開される見込みです。3月以降こまめに確認しましょう。
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医療従事者の処遇改善(賃上げ対応)

歯科衛生士・歯科技工士・受付スタッフ等の賃上げを目的とした評価が強化されます。政府目標として令和8年度・令和9年度それぞれで+3.2%のベースアップ実現が掲げられています。

歯科外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の拡充

令和6年度に新設されたこの評価料がさらに拡充されます。対象職員が「当該医療機関に勤務する職員」に広がり、段階区分も大幅に拡充されます。

現行の歯科ベースアップ評価料(Ⅰ)

初診時10点、再診時2点(令和6年度新設時の点数)。令和8年度改定で点数の引き上げと対象の拡大が行われます。改定後の歯科の確定点数は3月の告示・通知で正式に公示されます。

要注意

「賃上げ実施」が算定の前提条件です。給与規定の見直し等の準備が必要です。賃上げに取り組まない医療機関は入院基本料等の減算措置が検討されている点にもご注意ください。

ベースアップ評価料の活用シミュレーション

評価料(Ⅰ)で得られる賃上げ原資のイメージです(現行の歯科点数:初診時10点、再診時2点で試算)。

シミュレーション①
小規模医院:月間レセプト300枚(初診30名・再診延べ約370名)
  • 初診時加算:30名 × 10点 = 300点
  • 再診時加算:370名 × 2点 = 740点
  • 月間合計:1,040点 × 10円 = 10,400円/月
→ 年間で約124,800円の賃上げ原資を確保。
→ スタッフ3名に分配する場合、1人あたり月額約3,500円のベースアップ相当。
→ 改定後は点数が引き上げられるため、実際の原資はこれより増加する見込みです。
シミュレーション②
中規模医院:月間レセプト500枚(初診50名・再診延べ約600名)
  • 初診時加算:50名 × 10点 = 500点
  • 再診時加算:600名 × 2点 = 1,200点
  • 月間合計:1,700点 × 10円 = 17,000円/月
→ 年間で約204,000円の賃上げ原資を確保。
→ スタッフ5名に分配する場合、1人あたり月額約3,400円のベースアップ相当。
POINT

評価料(Ⅰ)だけでは政府目標(+3.2%)の賃上げには届きません。評価料(Ⅱ)の追加算定、初再診料の底上げ分、賃上げ促進税制の活用を組み合わせて、総合的に賃上げ原資を確保する設計が重要です。

CHECK

評価料(Ⅰ)だけでは対象職員の賃上げ率が1.2%に満たない場合は、評価料(Ⅱ)の追加算定が可能です。評価料(Ⅱ)は8段階に区分されており、自院の給与総額と算定回数から該当区分を計算して届出を行います。厚生労働省が公開しているExcel計算支援ツール・届出様式・説明動画を活用しましょう。

📥 ベースアップ評価料 届出説明動画・計算支援ツール(厚労省)
📥 ベースアップ評価料 特設ページ(届出様式・記載例・賃金改善計画書ツール)

【新設】歯科技工所ベースアップ支援料

歯科技工所に勤務する歯科技工士の処遇改善を支援するため、補綴物等の製作委託を行った場合に算定できる評価が新設されました。

項目点数
歯科技工所ベースアップ支援料(1装置につき)NEW 15点
院長先生が考慮すべきこと
  • ベースアップ評価料で得た報酬は全額、対象職員の賃上げ(基本給等のベースアップ+それに伴う賞与・社保料増加分)に充当する義務があります。他の経費に流用できません。
  • 毎年3・6・9・12月に算定回数と給与総額を再試算し、区分変更がある場合は届出が必要です。定期的な見直しを事務カレンダーに組み込みましょう。
  • 毎年8月に「賃金改善実績報告書」を厚生局に提出する義務があります。計画書とのズレが生じないよう、支給開始月と内訳を明確に記録しておきましょう。
  • 賃上げ促進税制の対象になる可能性があるため、税理士と連携して税額控除の適用可否を確認するのがお勧めです。
  • 歯科技工所ベースアップ支援料(15点/装置)は委託先の技工所で賃上げが行われることが前提です。取引先の技工所と事前に確認・合意しておきましょう。
3

口腔機能管理・ライフコース支援の拡充

「かかりつけ歯科医」としての機能をより重視する方向性が鮮明です。小児から高齢者まで、ライフコースを通じた口腔機能管理の推進が今回の改定の大きなテーマです。

口腔機能管理料の見直し

項目現行改定後増減
小児口腔機能管理料 60点 90点 +30点
口腔機能管理料 60点 90点 +30点

小児の口腔機能発達不全症、高齢者の口腔機能低下症への対応について、対象患者の範囲拡大と算定要件の整理が行われます。

歯科疾患管理料の適正化

項目現行改定後増減
歯科疾患管理料 100点 90点 −10点

歯管は微減ですが、口腔機能管理料(+30点)との組み合わせで包括的なケアを評価する仕組みへ移行します。「管理する歯科」への転換が収益の鍵です。

シミュレーション
歯管+口腔機能管理料+口腔機能実地指導料の改定前後比較(月間対象患者100名)
  • 改定前:歯管100点 + 口機能管理60点 = 160点 × 100名 = 16,000点
  • 改定後:歯管90点 + 口機能管理90点 + 実地指導46点 = 226点 × 100名 = 22,600点
→ 月間で+6,600点(+66,000円)、年間で約79.2万円の増収ポテンシャル。
→ ただし実地指導料は歯科衛生士が実施する項目であり、体制整備が前提。
→ 口腔機能管理料を算定しない場合は−10点/人の純減となるため、体制構築が急務です。

【新設】口腔機能実地指導料

適切な研修を受講した歯科衛生士が、歯科医師の指示を受けて口腔機能に関する実地指導を行った場合に新たに評価されます。

項目点数
口腔機能実地指導料NEW 46点

小児保隙装置の評価拡充

小児の咬合機能獲得を目的として、小児保隙装置の評価が大幅に見直されました。可撤式と修理・調整の新設も行われます。

項目現行改定後増減
小児保隙装置(固定式) 600点 850点 +250点
小児保隙装置(可撤式)NEW 1,200点 新設
歯科口腔リハビリテーション料1(小児保隙装置の場合)NEW 180点 新設
院長先生が考慮すべきこと
  • 口腔機能管理料の+30点を最大限活かすには、口腔機能評価(舌圧検査、咀嚼能力検査など)を日常診療に組み込む体制づくりが不可欠です。歯科衛生士の担当制や検査フローを今のうちに整備しましょう。
  • 口腔機能実地指導料(46点)は「適切な研修を受講した歯科衛生士」が要件です。DHの研修受講状況を確認し、未受講の場合は早期に手配しましょう。
  • 小児の口腔機能発達不全症、高齢者の口腔機能低下症への対応をカルテに明記する運用を徹底しましょう。算定根拠が曖昧だと返戻リスクが高まります。
  • 小児保隙装置(固定式+250点、可撤式1,200点新設)は小児歯科に注力する医院にとって大きな追い風です。適応症例の見直しを行いましょう。
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歯周病治療の再整理と医科歯科連携

歯周病治療体系の大幅な再編と、糖尿病等との医科歯科連携強化が今回の改定の注目ポイントです。

SPT・P重防の統合 →「歯周病継続支援治療」

従来の「歯周病安定期治療(SPT)」と「歯周病重症化予防治療(P重防)」が統合され、「歯周病継続支援治療」に一本化されます。

歯周病継続支援治療旧P重防旧SPT改定後(統合)
1〜9歯 150点 200点 170点
10〜19歯 200点 250点 200点
20歯以上 300点 350点 350点
POINT

統合後の点数は旧SPTと旧P重防の中間〜上限の水準に設定されました。20歯以上では旧SPTと同じ350点が維持されています。算定要件の詳細は3月の告示・通知で確定します。

【新設】重症化予防連携強化加算(医科歯科連携)

糖尿病患者等に対し、医科(内科等)からの紹介に基づき歯周病治療を実施し、診療情報を提供した場合に算定できる加算が新設されました。

項目点数
重症化予防連携強化加算NEW 100点

周術期・回復期の口腔機能管理

項目点数
周術期等口腔機能管理計画策定料1 300点
周術期等口腔機能管理計画策定料2(計画修正時)NEW 150点
回復期等口腔機能管理計画策定料1NEW 300点
回復期等口腔機能管理計画策定料2NEW 150点
院長先生が考慮すべきこと
  • SPT/P重防統合は最大の運用変更ポイントです。レセコンのマスタ更新だけでなく、院内の運用手順書・カルテテンプレートの全面見直しが必要です。
  • 医科歯科連携は新たな患者獲得チャネルです。重症化予防連携強化加算(100点)を活用するために、近隣の糖尿病内科・内科クリニックとの紹介ネットワークを構築しましょう。紹介状のテンプレートも事前に準備すると効果的です。
  • 周術期管理は病院歯科との連携だけでなく、地域のがん拠点病院との連携実績を積むことで、在宅療養支援歯科診療所の施設基準取得にもつながります。
  • 連携に伴う文書作成では、「患者の署名省略」や「電子カルテ上での共有」を条件とした簡略化が検討されており、事務負担の軽減も期待できます。
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歯科技術・DXの評価

デジタル技術の導入や技工連携に対する新たな評価が加わります。国はデジタル化の推進に明確なインセンティブを設けています。

光学印象の評価拡充

令和6年度に100点で新設された光学印象が150点に増点。さらに、対象がCAD/CAMインレーのみからCAD/CAM冠にも拡大されます。

項目現行改定後増減
光学印象(1歯につき) 100点 150点 +50点
CAD/CAMインレー 750点 770点 +20点

CAD/CAM冠またはCAD/CAMインレーの製作にあたり、口腔内スキャナーを用いて直接法で印象採得・咬合採得を行った場合に、製作物ごとに算定できます。

口腔内スキャナー導入の収支シミュレーション

シミュレーション
口腔内スキャナー導入の投資回収(CAD/CAM冠+インレー)

従来の印象採得(印象64点+咬合採得18点=82点)に対し、光学印象は150点で算定。差額は1歯あたり+68点(680円)です。

  • スキャナー購入費:200万円(廉価版)の場合
  • 220万円(税込) ÷ 680円 ≒ 約3,235本
  • 月20本ペース:約13.5年で回収
  • 月30本ペース(冠への対象拡大込み):約9年で回収
→ 保険点数の差額だけでの回収は長期にわたります。自費のセラミック修復・マウスピース矯正での活用、印象材コスト削減、保守管理料、患者満足度向上による増患効果も含めた総合判断が重要です。
→ CAD/CAM冠への対象拡大により月間算定件数が大幅に増える可能性があり、回収期間は従来の想定より短縮できます。

【新設】3次元プリント有床義歯

項目点数
3次元プリント有床義歯(1顎につき)NEW 4,000点

歯科技工士との連携強化

項目点数内容
歯科技工士連携加算1(対面) 60点 技工士が医院に来院して連携
歯科技工士連携加算2(ICT活用) 80点 画像やWeb会議システムを利用した連携
CHECK

ICT活用(加算2:80点)のほうが対面(加算1:60点)より高い評価です。Web会議システムや口腔内画像の共有環境を整備すれば、遠方の技工所とも連携しやすくなります。デジタル技工指示書の導入も併せて検討しましょう。

局部義歯の材料見直し

局部義歯のクラスプ(鉤)やバーについて、製作の実態に即してコバルトクロム合金の使用が原則化されます。14カラット金合金や金銀パラジウム合金を使用する場合は、使用理由を診療録に記載することが求められます。

医療DX推進体制整備加算

マイナ保険証の利用実績や電子処方箋の導入が、医療DX推進体制整備加算の算定条件として引き続き重視されます。DX対応の体制整備が収益に直結する構造がより鮮明になっています。

院長先生が考慮すべきこと
  • 光学印象の施設基準の届出が必須です。歯科補綴治療に係る3年以上の経験を持つ歯科医師の配置と、院内にデジタル印象採得装置を保有していることが要件です。
  • 光学印象時に歯科技工士が対面で口腔内を確認した場合、光学印象歯科技工士連携加算(50点)を追加算定できます。院内ラボがある医院は特に有利です。
  • 3次元プリント有床義歯(4,000点/顎)は液槽光重合方式(SLA/DLP)の3Dプリンターで製作した義歯が対象です。院内導入か対応技工所への委託かの判断が必要です。
  • コバルトクロム合金の原則化に伴い、金パラ使用時は診療録への理由記載が必須となります。算定漏れ・記載漏れに注意しましょう。
  • マイナ保険証の利用率向上施策(声かけ・掲示)を継続し、電子処方箋の導入準備も6月の施行に間に合うよう進めましょう。
6

施設基準の再編と在宅歯科医療

「医療安全」と「感染防止」の分離

従来「外来環」で一括されていた医療安全対策と感染防止対策がそれぞれ独立した施設基準に再編されます。「歯科外来診療医療安全対策加算」と「歯科外来診療感染対策加算」に分離され、要件・評価の見直しが行われます。

在宅歯科医療の提供体制強化

在宅療養支援歯科診療所の施設基準が細分化され、教育体制や実績に応じた評価が行われます。

項目点数
在宅療養支援歯科診療所加算1 100点
在宅療養支援歯科診療所加算2 50点
地域歯科医療加算NEW 100点

地域歯科医療加算は、歯科医療の確保が困難な地域において自治体等と連携して歯科巡回診療車を用いた巡回診療を実施した場合に算定できます。

院長先生が考慮すべきこと
  • 既に外来環を届出済みの医院も、新基準への移行手続きが必要になる可能性があります。管轄の厚生局からの通知を注視してください。
  • 医療安全と感染防止が分離されたことで、両方の施設基準を取得すれば従来よりも合計点数が増える可能性があります。
  • 感染対策加算には滅菌機器の設置状況や院内感染対策マニュアルの整備が、医療安全対策にはAED・パルスオキシメーター等の救急機器配備や年1回以上の院内研修実績が関わります。
  • 在宅歯科医療に取り組む医院は、施設基準の細分化に伴い上位区分への届出が可能か確認しましょう。
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今後のスケジュールと対策

2025年12月
改定率決定(本体+3.09%)、基本方針策定
2026年1月14日
厚生労働大臣から中医協へ諮問
2026年1月23日
個別改定項目(短冊)公表 ※点数は「●●点」表記
2026年2月13日 ★
中医協答申 ─ 確定点数が公表されました ← いまここ
2026年3月
告示・通知発出、疑義解釈資料の公開
2026年4月1日
薬価改定(先行施行)
2026年6月1日
診療報酬(本体)施行 ─ 新点数での算定開始
施行までにやるべきこと ─ 月別アクションプラン
  • 3月:告示・通知が出たら、新設項目の算定要件と施設基準を精読。届出が必要な項目をリストアップ。疑義解釈もチェック。
  • 3〜4月:レセコンベンダーに改定対応スケジュールを確認し、マスタ更新の段取りを調整。SPT/P重防統合に伴うマスタ変更は特に重要。
  • 4月:社労士・税理士と連携し、ベースアップ評価料の活用計画と賃上げシミュレーションを実施。賃上げ促進税制の活用も検討。
  • 4〜5月:院内研修を実施。口腔機能管理の評価フロー、歯周病継続支援治療の運用手順、スキャナー操作、医科歯科連携の文書フローなど。
  • 5月上旬:施設基準の届出(新基準への移行届含む)を厚生局に提出。光学印象の施設基準、ベースアップ評価料の届出も忘れずに。
  • 5月中旬:近隣の内科・糖尿病専門医へ重症化予防連携の案内を送付。紹介状テンプレートを準備。
  • 5月下旬:患者向け掲示物の更新、窓口説明用FAQの準備。スタッフ全員での最終ロールプレイング。
  • 6月1日:新点数での算定開始。初月は算定漏れがないか重点的にチェック。

院長先生へのアドバイス ─ 3つの経営戦略軸

今回の改定は「賃上げ原資の確保」「管理型歯科への転換」「デジタル投資の判断」が経営上の3大テーマです。6月の施行に向けて、以下のアクションを優先度順に進めましょう。